再認識される日中経済関係の重要性

再認識される日中経済関係の重要性

城西大学大学院経済学研究科・経営学部 教授 張紀潯
LSNow5月号ゲストスピーチ


 世界金融危機は、日本にも中国にも大きな打撃を与えました。世界的金融危機による影響がはっきりと現れた去年11月に北京釣魚台国賓館で「エネルギーと金融世界フォーラム」が緊急に開かれ、私は招かれ、講演し、「中国が、1990年以降従来のように日本に学ぶ姿勢を捨て、アメリカ一辺倒の経済政策を採ってきたことは誤りで、再び日本に学ぶ必要がある」ことを訴えた。
それは1990年バブル経済崩壊後に日本が採ってきた諸政策が中国の危機回復に役立つためです。いまの中国経済は日本の高度成長期またはバブル経済期の日本経済と良く似ています。特にWTO加盟後中国のGDPは1兆ドルからわずか8年で、2008年に30兆元、約450兆円に達し、日本のGDP規模と並びました。2004年から2桁の伸び率を続けたGDP が去年は9%、今年の第1四半期は6.1%と減速しており金融危機の影響が窺えます。それでも輸出入貿易は2900億ドルの大幅黒字です。金融危機で世界の投資が減る中、中国向け直接投資は実施ベースで924億ドルと23%も伸びています。対日直接投資が約30億ドルなので、対中投資の1年分は対日投資の30年分に相当します。直接投資が増加する最大の要因は中国が「世界の工場」から「世界の市場」へ変わり、中国の市場占拠率の拡大を目指す内需型投資が急増したためです。新車販売台数は今年1000万台を超えて世界一になるでしょう。中国で作った製品の7割以上を中国で売る「内販型企業」が伸びています。外貨準備高は昨年末に約2兆ドルで日本の2倍、香港・台湾をあわせると日本の3倍の外貨保有国となりました。
人口構造は、2008年の総人口が約13億3千万人。15歳から59歳までの労働力人口は約9億1千万人。都市部就業者数が30年間で4倍に増えて2008年に3億人を超えました。農村の就業者数は約4億人です。2000年に65歳以上の人口が7%の高齢化社会に入り、世界一の高齢化人口を抱えて様々な問題に直面しておりますので、日本の高齢化対策と経験が中国の高齢化対策に生かせれば良いと思います。
 失業問題も深刻です。前述の農村就業者4億人の内1.3億人が出稼ぎ労働者「農民工」として都会で働いており、今回の危機でその2000万人が仕事を失いました。次に大学卒業者の問題です。今年就職を要する学生が710万人ですが、就職率70%と考えると今年の卒業浪人は150万人と史上最高を記録することになります。そこで学生は大学院または海外留学を目指します。中国人留学生の増加により2005年に日本における外国人留学生が10万人を超えました。その時点から、中国人留学生に対する審査が厳しくなり、許可率はわずか20%ですが、それでも日本への留学希望者は増えています。
中国の雇用対策として、農民工を対象とする職業訓練を強化し、その数を1000-1500万人とする目標を打ち出した。今年の全人代は新たに雇用対策費6100億元を拠出し、主に新卒者に農村での就業を促し、農民工に対する帰郷先での起業資金の援助で、これらの政策は日本と同じです。このように中国の失業対策、社会保障政策は日本を非常に参考にしており、私が近年中国に提案したものも幾つか実現しています。日本の経験を今後とも積極的に紹介し、中国の参考になれば良いと思います。
日中経済関係のポイントを整理しますと、(1)日中経済関係は既に国際分業関係から企業内分業関係に変わり、各企業の世界戦略の中で中国をどう位置づけるかという段階になっている。(2)内需拡大政策に日本の支援が期待されている。特に省エネ・環境・リサイクル等の分野の援助が必要。(3)中国の大学との共同研究開発・留学生の活用など、中国の人材・頭脳を活用することが日本にとっても有効。(4)中国からの対日投資を促進することが必要。このように考えます。私は、中国の経済活力を日本経済の復興に生かすために日々考え、努力をしています。皆様と協力して一つずつ実現してゆきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。